- ネットワーク
WANとは|LANとの違い・種類・WANポートを図と実例で解説
結論
WANとは、離れた場所にあるLANどうしをつなぐ、広い範囲のネットワークです。家ではルーターのWANポートから先が、WAN側です。
この記事でわかること
- LAN・WAN・インターネットの違い表と図3枚
- WANの種類5つ(専用線〜SD-WAN)の比較表
- LAN内とWAN越しの経路・遅延・速度の実測3通り
LAN(ラン)は家やオフィスの中のネットワーク、WAN(ワン)はその外に広がる、建物や地域をまたぐネットワークです。ルーターが LAN と WAN の境目に立ち、WAN を通って別の拠点やインターネットにつながります。
flowchart TD
A[拠点A・自宅のLAN<br>PC・スマホ] --> RA[ルーター<br>WANポート]
RA --> W[WAN<br>通信事業者の回線]
W --> RB[ルーター<br>拠点B]
RB --> B[拠点BのLAN]
W --> I[インターネット]
急いでいる人向けに、よく調べられることの答えを先にまとめます。
| 知りたいこと | 答え | 詳しい節 |
|---|---|---|
| WANとは | 離れた LAN どうしをつなぐ広域のネットワーク | WANとは |
| LANとの違い | LAN は建物の中、WAN は建物・地域をまたぐ | 違い |
| インターネットとの違い | 会社の WAN は閉じた網。インターネットは誰でも通る網 | 違い |
| WANポート | ルーターの、ONU・モデムにつなぐ口(INTERNET と書く機種も) | WANポート |
| WAN側IPアドレス | ルーターの外側の住所。多くはグローバル IP | WAN側IP |
| 会社の WAN の種類 | 専用線・広域イーサネット・IP-VPN・インターネットVPN・SD-WAN | 種類 |
| WAN が遅い理由 | 距離による遅延と、1往復で送れる量の上限 | 速度の考え方 |
| WANランプが点かない | ケーブルの差し直し、ONU→ルーターの順に再起動 | トラブル |
確認環境:Ubuntu 24.04.4 LTS・Linux カーネル 6.18。ネットワーク名前空間(ip netns。1台の中に独立したネットワークを作る仕組み)で、LAN A(PC 2台とルーター A)、LAN B(PC とルーター B)、その間をつなぐ WAN 役のルーターを作りました。iproute2 6.1.0 の ip・bridge、iptables 1.8.10 の NAT(名前空間の中だけ)、traceroute 2.1.5、iputils 20240117 の ping、tcpdump 4.99.4 で経路とパケットを確かめ、WAN の区間に Python 3.11.15 の中継で往復 0・20・100ms の遅延を足しました。インターネット VPN は Python と cryptography 46.0.7(AES-GCM)で作った最小の形、広域イーサネットに近い形は Linux の VXLAN で再現しています。LAN と WAN の説明は NTT東日本と AWS の解説、WAN サービスの種類は NTT東日本・AWS・@IT の解説、SD-WAN はトレンドマイクロの解説、WAN 最適化は HPE の解説、WAN ポートはバッファローのサポート、アドレスの範囲は RFC 1918・RFC 6598、TCP のウィンドウは RFC 7323、VXLAN は RFC 7348、tracert は Microsoft Learn で確かめました(確認日 2026年10月23日)。
本記事の内容は、ご自由にお使いください。
ご利用の際は、出典として本ページへのリンクを記載いただけますようお願いします。
(記載例)出典:株式会社RJC「WANとは|LANとの違い・種類・WANポートを図と実例で解説」
WANとは(意味・読み方)
この節では、WAN が何の略で、何をつなぐネットワークなのかが分かります。
WAN(Wide Area Network、ワン)は、物理的に離れた場所にある LAN どうしをつなぐネットワークです。 日本語では「広域ネットワーク」と呼びます。NTT東日本の解説は、WAN を「物理的に離れたエリアと接続できるネットワーク」と説明し、東京と大阪の支店をつなぐ例を挙げています。AWS の解説も、建物やキャンパスの範囲を超えて、地域や世界中の拠点をつなぐネットワークで、複数の LAN を長い距離でつないで作ることもある、としています。
1道路でいうと
LAN は家の敷地の中の通路。WAN は家と家、町と町をつなぐ高速道路や国道。
2会社でいうと
本社のLANと大阪支店のLANを、通信事業者の回線でつないだものが会社の WAN。
3家でいうと
ルーターの WAN ポートから先、ONU と光回線を通ってプロバイダへ向かう側が WAN 側。
LAN と WAN を分けているのは、「自分で配線して管理する範囲」か、「通信事業者の回線を借りてつなぐ範囲」か、という点です。会社が東京と大阪の間に自分でケーブルを引くのは現実的ではないので、WAN の区間は通信事業者のサービスを使います。NTT東日本の解説も、自前で専用回線を敷くのは手間とコストの面で現実的ではなく、WAN サービスの利用が主流としています。
LAN・WAN・インターネットの違い
この節では、LAN・WAN・インターネットの3つが、範囲・アドレス・機器・持ち主でどう違うかを1つの表で比べられます。
LAN は建物の中、WAN は建物や地域をまたぐ範囲、インターネットは世界中のネットワークが互いにつながった網です。 「WAN」は広い意味ではインターネットも含みますが、会社で「WAN」と言うときは、拠点どうしを結ぶ、関係者だけが使う閉じたネットワークを指すことが多くなります。
| 比べる点 | LAN | WAN(会社の拠点間) | インターネット |
|---|---|---|---|
| 範囲 | 家・フロア・建物の中 | 建物・都市・国をまたぐ | 世界中 |
| 使う人 | その家・会社の人 | その会社の拠点だけ | だれでも |
| IP アドレス | プライベート IP | プライベート IP のまま運ぶことが多い | グローバル IP |
| 主な機器 | スイッチ(ハブ)・無線の親機・ルーター | ルーター・通信事業者の網 | ISP のルーター群 |
| 回線の持ち主 | 自分(自宅・自社) | 通信事業者(借りる) | 多数の事業者 |
| 遅延 | 1ms 未満が多い | 距離に応じて数 ms〜数百 ms | 距離と経路しだい |
| 費用 | 機器を買えば月額はかからない | 回線ごとの月額(種類で大きく違う) | プロバイダの月額 |
| 守り方 | 建物の中に閉じる | 閉域網で分ける、または VPN で暗号化 | 通信ごとに暗号化(HTTPS など) |
- NTT東日本の解説は、LAN と WAN の違いを「ネットワーク範囲」「IP アドレス」「構成する機器」の3点で整理し、LAN はプライベート IP アドレス、WAN は通信事業者からグローバル IP アドレスが割り当てられる、としています。家のルーターの WAN 側がこれにあたります。
- AWS の解説は、LAN はケーブルやアクセスポイントで物理的につなぎ、WAN は MPLS・VPN・専用線・クラウドへの接続などの広域の接続を使う、と整理しています。
- 遅延の行の値は、後の節の実測(同じ LAN の中は 0.06ms 前後、WAN を越えると足した遅延の分だけ増える)と、光ファイバーの中の光の速さ(1,000km で往復約9.8ms)にもとづく目安です。
PC から同じ LAN のプリンターへ
後の節の実測では、LAN の中は1ホップ、WAN 越しは3ホップだった
往復にかかる時間
WAN の速さは、帯域(Mbps)だけでなく遅延でも決まる
LAN の形には、NTT東日本の解説が挙げるスター型(ハブを中心に放射状につなぐ)・リング型・バス型があります。有線(LAN ケーブル)でも無線(Wi-Fi)でも、建物の中のネットワークは LAN です。WAN の側も、光回線のような有線だけでなく、トレンドマイクロの解説が SD-WAN の回線の例に挙げる LTE のような、携帯電話の網を使う形があります。
WAN はインターネットと同じではありません。 会社の WAN は、通信事業者の閉じた網(閉域網)で拠点だけを結ぶ形と、インターネットの上に暗号化した通り道(VPN)を作る形があります。後者はインターネットを使いますが、拠点の間だけで使う閉じたネットワークとして見えます。違いは「WANの種類」の節と、Linux で作った実物で確かめます。
ルーターのWANポートとLANポート(見分け方とつなぎ方)
この節では、家庭用ルーターの背面にある WAN ポートと LAN ポートの見分け方と、正しいつなぎ方が分かります。
WAN ポートは、ルーターを ONU(光回線の終端装置)やモデムにつなぐための口です。LAN ポートは、家の中の PC・ゲーム機・ハブをつなぐ口です。 機種によっては WAN ポートに「INTERNET」と書かれています。バッファローのサポートは、Wi-Fi ルーターの INTERNET ポートを「青色の差込口」として案内しています。
| 比べる点 | WAN ポート | LAN ポート |
|---|---|---|
| つなぐ先 | ONU・モデム・ホームゲートウェイ | PC・ゲーム機・プリンター・ハブ |
| 表示の例 | WAN・INTERNET・地球のマーク | LAN・1〜4 などの番号 |
| 付く IP アドレス | プロバイダから受け取る(WAN 側 IP) | ルーターが配る(192.168.x.x など) |
ONU とルーターの WAN ポートをつなぐ
ONU の LAN ポートと、ルーターの WAN(INTERNET)ポートを LAN ケーブルでつなぐ。
PC やハブを LAN ポートにつなぐ
有線の機器は LAN ポートへ。ポートが足りなければハブを LAN ポートにつなぐ。
プロバイダの接続設定をする
プロバイダの案内に沿って、ルーターの管理画面で接続方式を設定する。
WAN のランプを確かめる
ランプが点けば、ルーターから WAN 側へつながっている。
- WAN ポートと LAN ポートを逆につなぐと、インターネットにつながりません。 ONU を LAN ポートに差すと、ルーターは外への出口を見つけられず、家の中の機器もルーターを通ってインターネットへ出られません。
- ハブは LAN ポートの先につなぎます。ハブにはルーターの機能が無いので、ONU とハブを直接つないでもインターネットには出られません。ハブの役割は、関連記事「ハブとは|スイッチ・ルーターとの違いと仕組みを実例で解説」で扱っています。
- 家の中の機器から見ると、外へ出るときの出口はルーターの LAN 側のアドレス(デフォルトゲートウェイ)です。調べ方と設定は、関連記事「デフォルトゲートウェイとは|調べ方・設定・決め方をLinuxで実演」で扱っています。
WAN側IPアドレスとは(LAN側IPとの違い)
この節では、ルーターの WAN 側と LAN 側に付く2つの IP アドレスの違いと、WAN 側の IP がプライベートになっているときの意味が分かります。
ルーターには、WAN 側と LAN 側に別々の IP アドレスが付きます。 LAN 側は家の中で使う住所(例 192.168.1.1)、WAN 側はプロバイダから受け取る外の住所です。家の中の PC がインターネットに出るとき、ルーターは送信元を WAN 側の IP に書き換えます(NAT)。そのため、外の相手からは、家の中のどの機器も WAN 側の IP 1つに見えます。
| 範囲 | 種類 | 決めている文書 |
|---|---|---|
| 10.0.0.0〜10.255.255.255(10/8) | プライベート IP | RFC 1918 |
| 172.16.0.0〜172.31.255.255(172.16/12) | プライベート IP | RFC 1918 |
| 192.168.0.0〜192.168.255.255(192.168/16) | プライベート IP | RFC 1918 |
| 100.64.0.0〜100.127.255.255(100.64.0.0/10) | 通信事業者の NAT(CGN)用 | RFC 6598 |
| 上のどれでもない | グローバル IP(一部の特別な範囲を除く) | — |
- ルーターの管理画面で WAN 側の IP が上の表のプライベート IP や 100.64.0.0/10 になっていたら、ルーターの外にもう1段 NAT があります。 RFC 6598 は、100.64.0.0/10 を、通信事業者が CGN(大規模な NAT)の装置と利用者の機器の間で使う範囲と定めています。マンションの共用の設備や、ホームゲートウェイの下に自分のルーターをつないだときにも、WAN 側がプライベート IP になります。
- 自分の WAN 側の IP(グローバル IP)を外から見た値で確かめる方法は、関連記事「グローバルIPの確認方法|コマンド・プライベートIPとの違いとNATを実演」で扱っています。
- NAT のあるルーターでは、外から始まった通信は、どの機器あてか決まらないので家の中に届きません。家の中のサーバーを外に公開するときに「ポート開放(ポートフォワーディング)」の設定が要るのはこのためです。
- バッファローのサポートは、LAN 側から WAN 側の IP アドレスを指定するとルーターの設定画面が表示される、ポート開放の確認は WAN(インターネット)側から行う、と説明しています。家の中からの確認では、外から届くかどうかは分かりません。
後の節で作った実験のネットワークでも、PC(192.168.10.11)から WAN の向こうのルーター B へ ping を送ると、ルーター A の NAT の有無で、ルーター B に届く送信元が変わりました。
[NAT なし:ルーター B に届いたもの]
IP 192.168.10.11 > 203.0.113.2: ICMP echo request, id 5735, seq 1, length 64
IP 203.0.113.2 > 192.168.10.11: ICMP echo reply, id 5735, seq 1, length 64
→ PC 側の結果: 2 packets transmitted, 0 received, 100% packet loss
[NAT あり:ルーター B に届いたもの]
IP 198.51.100.2 > 203.0.113.2: ICMP echo request, id 5695, seq 1, length 64
IP 203.0.113.2 > 198.51.100.2: ICMP echo reply, id 5695, seq 1, length 64
→ PC 側の結果: 1 packets transmitted, 1 received, 0% packet loss
NAT なしでは、ルーター B は返事を出したのに、PC には届きませんでした。 返事の宛先が 192.168.10.11(プライベート IP)で、WAN 役のルーターがその宛先への道を知らないためです。インターネットのルーターも、プライベート IP あての道を持ちません。NAT ありでは、送信元がルーター A の WAN 側の IP(198.51.100.2)に書き換わり、返事が戻りました。
家庭と会社のWANの例
この節では、家と会社で「WAN」が具体的にどの部分を指すのかが、例で分かります。
家庭の WAN
ルーターの WAN ポート → ONU → 光回線 → プロバイダ
WAN 側の IP はプロバイダから受け取る
目的はインターネットにつなぐこと
会社の WAN
本社・支店・工場・データセンターを結ぶ
通信事業者の閉域網か、インターネット VPN を使う
拠点の間をプライベート IP のまま通すことが多い
- 家庭:ルーターの外側の、ONU・光回線・プロバイダの網が WAN 側です。家の中(LAN)の PC やスマホは、ルーターを通って WAN 側へ出て、インターネットにつながります。
- 会社:本社の LAN と支店の LAN を WAN でつなぎ、支店の PC から本社のファイルサーバーや業務システムを使います。拠点が多い会社では、全拠点を通信事業者の網につなぐ形がとられます。
- クラウド:AWS の解説は、WAN の接続方法としてクラウド上のリソースどうしやクラウドとの接続も挙げています。社内の拠点とクラウドの間も、WAN の一部として設計します。
WANの種類(専用線・広域イーサネット・IP-VPN・インターネットVPN・SD-WAN)
この節では、会社で拠点をつなぐ WAN のサービスの種類と、それぞれの違いを1つの表で比べられます。
会社の WAN は、通信事業者の閉じた網を使う「専用線・広域イーサネット・IP-VPN」と、インターネットを使う「インターネット VPN」に大きく分かれます。SD-WAN は、それらの回線を組み合わせてソフトウェアで制御する仕組みです。
| 種類 | どうつなぐか | 運べるもの | 品質と費用の傾向 |
|---|---|---|---|
| 専用線 | 2拠点を1対1で専用の回線で結ぶ | 何でも(回線を占有) | 品質は最も高く、費用も高い |
| 広域イーサネット | 通信事業者のイーサネット網に各拠点の LAN をつなぐ | 第2層。IP 以外も運べる | 速度が安定。設計の自由度が高い |
| IP-VPN | 通信事業者の閉域 IP 網(MPLS)を共用する | 第3層。IP のみ | 安定・安全。費用はかかる |
| インターネット VPN | インターネットの上で暗号化した通り道を作る | IP(暗号化して運ぶ) | 安い。品質はインターネットしだい |
| SD-WAN | 複数の回線をソフトウェアで束ね、経路を自動で選ぶ | 回線の上で動く仕組み | 回線を組み合わせて費用と品質を調整 |
- 専用線:AWS の解説は、2拠点を結ぶ専用のポイントツーポイントの接続で、設置に費用がかかるとしています。@IT の解説(2004年)は、WAN サービスの中で品質が最も高く価格も高い一方、専用線で WAN 全体を組む例はまれで、IP-VPN や広域イーサネットにつなぐためのアクセス回線として使われることが多い、としています。
- 広域イーサネット:NTT東日本の解説は、通信事業者のイーサネット網に企業の LAN を直接つなぐデータリンク層のサービスで、広い範囲でも速度が安定し、プロトコルに制限が無く、LAN どうしをつなぎやすい一方、設定が複雑としています。@IT の解説も、LAN のポートにつなぐだけで WAN を組め、IP 以外のプロトコルも使えるとしています。
- IP-VPN:NTT東日本の解説は、プロバイダなどの閉域 IP 網を使うサービスで、不正アクセスの心配が少なく通信が安定する一方、コストがかかり、プロトコルは IP のみとしています。@IT の解説は、MPLS(ラベルで転送する技術)で網を共用しながら、利用者ごとに通信を分けているとしています。
- インターネット VPN:NTT東日本の解説は、インターネット回線を使い、通信を暗号化する WAN サービスで、低価格で使える一方、不特定多数が使う回線を通るためセキュリティの面のリスクや、通信が不安定になる可能性があるとしています。
- SD-WAN:トレンドマイクロの解説は、ソフトウェアでトラフィックの経路をリアルタイムに管理するネットワークの形で、混雑や遅延に応じてインターネット・MPLS・LTE などから経路を選び、管理画面(オーケストレーター)で設定を一元管理する、としています。多くの場合、データセンターを経由せずにクラウドへ直接送る、とも説明しています。
どれを選ぶかの判断表
| 状況 | 向いている種類 | 理由 |
|---|---|---|
| 拠点が2つで、大容量・高品質がほしい | 専用線 | 2拠点を占有の回線で結ぶ |
| 拠点の LAN を同じネットワークのように使いたい | 広域イーサネット | 第2層でつなぎ、IP 以外も運べる |
| 拠点が多く、安定と安全を重視する | IP-VPN | 閉域網で、多拠点をまとめてつなぎやすい |
| 費用を抑えたい・小さな拠点や在宅 | インターネット VPN | 手元のインターネット回線を使う |
| クラウドの利用が多く、回線を使い分けたい | SD-WAN | 用途ごとに回線を選び、一元管理する |
社員の PC から社内へつなぐ VPN や、拠点の機器どうしを VPN で直接つなぐ仕組みは、関連記事「Tailscaleとは|使い方・料金・VPNとの違いをWireGuardで実演」で扱っています。
LinuxでLAN 2つとWANを作って確かめる(traceroute・NAT・VPN)
この節では、2つの LAN と WAN 役のルーターを1台の Linux の中に作り、LAN の中と WAN を越える通信の経路の違いを、実際の出力で確かめられます。
作った構成
ネットワーク名前空間で、LAN A(PC-A1・PC-A2)とルーター A、LAN B(PC-B1)とルーター B、その間で WAN の役をするルーターを作りました。ルーター A・B の WAN 側には、説明用に予約されたアドレス(198.51.100.0/24・203.0.113.0/24)を使っています。WAN 役のルーターは、2つの WAN 側の区間への道だけを知っていて、LAN のプライベート IP への道は知りません。インターネットのルーターと同じ条件です。
flowchart TD
A1[PC-A1 192.168.10.11<br>PC-A2 192.168.10.12] --- RA[ルーターA<br>LAN 192.168.10.1<br>WAN 198.51.100.2]
RA --- W[WAN役のルーター<br>198.51.100.1<br>203.0.113.1]
W ---|遅延を足す区間| RB[ルーターB<br>WAN 203.0.113.2<br>LAN 192.168.20.1]
RB --- B1[PC-B1<br>192.168.20.11]
for n in a1 a2 ra wan rb b1; do ip netns add s398-$n; ip -n s398-$n link set lo up; done
ip -n s398-ra link add br0 type bridge # LAN A のスイッチ
for h in a1 a2; do
ip link add eth0 netns s398-$h type veth peer name p$h netns s398-ra
ip -n s398-ra link set p$h master br0; ip -n s398-ra link set p$h up
done
ip -n s398-a1 addr add 192.168.10.11/24 dev eth0
ip -n s398-ra addr add 192.168.10.1/24 dev br0 # ルーター A の LAN 側
ip link add wan0 netns s398-ra type veth peer name ea netns s398-wan
ip -n s398-ra addr add 198.51.100.2/30 dev wan0 # ルーター A の WAN ポート
ip -n s398-wan addr add 198.51.100.1/30 dev ea
# WAN 役のルーター〜ルーター B は TUN でつなぎ、間に遅延の中継を入れる(LAN B も同じ形で作る。略)
ip -n s398-a1 route add default via 192.168.10.1 # PC の出口はルーター A
ip -n s398-ra route add default via 198.51.100.1 # ルーター A の出口は WAN
ip netns exec s398-ra sysctl -qw net.ipv4.ip_forward=1 # 転送の設定は名前空間の中だけ
ip netns exec s398-ra iptables -t nat -A POSTROUTING -o wan0 -j MASQUERADE # WAN へ出るとき NAT
ルーター A の住所と経路表です。LAN 側(br0)と WAN 側(wan0)に別々の IP があり、LAN にない宛先は WAN 側の出口(198.51.100.1)へ送ります。
$ ip -br -4 addr # ルーター A(lo と VPN の行は省略)
br0 UP 192.168.10.1/24
wan0@if2 UP 198.51.100.2/30
$ ip route # ルーター A(VPN の行は省略)
default via 198.51.100.1 dev wan0
192.168.10.0/24 dev br0 proto kernel scope link src 192.168.10.1
198.51.100.0/30 dev wan0 proto kernel scope link src 198.51.100.2
LAN の中は1ホップ、WAN を越えると3ホップ
PC-A1 から、同じ LAN の PC-A2 と、WAN の向こうのルーター B へ traceroute を送りました。traceroute は、通ったルーターを順に表示するコマンドです。WAN を越える宛先には -N 1(1つずつ順に調べる)を付けています。付けずに一度にまとめて送ると、返事が足りずに途中の行が * * * になることがあり、1つずつ送ると出なくなりました。
$ traceroute -n 192.168.10.12 # 同じ LAN の PC
traceroute to 192.168.10.12 (192.168.10.12), 30 hops max, 60 byte packets
1 192.168.10.12 0.036 ms 0.004 ms 0.003 ms
$ traceroute -n -N 1 203.0.113.2 # WAN の向こう
traceroute to 203.0.113.2 (203.0.113.2), 30 hops max, 60 byte packets
1 192.168.10.1 0.076 ms 0.011 ms 0.006 ms
2 198.51.100.1 0.021 ms 0.010 ms 0.009 ms
3 203.0.113.2 0.448 ms 0.323 ms 0.273 ms
| 行 | 何か | LAN か WAN か |
|---|---|---|
| 1 192.168.10.1 | ルーター A の LAN 側 | ここまで LAN |
| 2 198.51.100.1 | WAN 役のルーター | WAN |
| 3 203.0.113.2 | ルーター B の WAN 側 | WAN の向こう |
同じ LAN の相手には、ルーターを通らず1回で届きました。 スイッチは traceroute に現れないので、相手が直接1行目に出ます。WAN を越える相手には、まず自分のルーター(デフォルトゲートウェイ)、次に WAN のルーター、と順に表示されます。
プライベート IP のままでは WAN を越えられない
NAT を外した状態で、PC-A1 から同じ宛先へ traceroute を送ると、2つ目から先が * * * になりました。
$ traceroute -n -N 1 -m 4 203.0.113.2 # ルーター A の NAT を外した状態
traceroute to 203.0.113.2 (203.0.113.2), 4 hops max, 60 byte packets
1 192.168.10.1 0.045 ms 0.006 ms 0.004 ms
2 * * *
3 * * *
4 * * *
WAN の先のルーターは調べるパケットを受け取り、返事も出しています。ただ、返事の宛先が 192.168.10.11 なので、WAN 役のルーターがどこへ送ればよいか分からず捨てています。前の節の tcpdump の結果と同じ理由です。
NAT を付けても、相手の LAN の PC(192.168.20.11)には届きません。WAN 役のルーターは、その宛先への道が無いことを !N(ネットワークに届かない)で返しました。
$ traceroute -n -N 1 -m 5 192.168.20.11 # NAT あり・VPN なし
traceroute to 192.168.20.11 (192.168.20.11), 5 hops max, 60 byte packets
1 192.168.10.1 0.023 ms 0.005 ms 0.011 ms
2 198.51.100.1 0.013 ms !N * *
* * * や !N の読み方と、Windows の tracert との違いは、関連記事「traceroute・tracertの使い方|見方と * ・!Hの意味を実例で」で扱っています。Windows では tracert /d 宛先 で同じ経路を調べられ、Microsoft Learn によると /d は途中のルーターの名前を調べずに速く表示する指定です。
インターネット VPN でつなぐと、LAN どうしが直接見える
拠点どうしをプライベート IP のままつなぐのが、会社の WAN の役目です。ルーター A と B の間に、LAN のパケットを暗号化して UDP(39800番)で相手のルーターに送る、最小のインターネット VPN を Python で作りました。鍵は両側に同じ値を書いた実験用の形で、実際の VPN 製品は、鍵の交換や相手の確認の仕組みを持ちます。
"""インターネット VPN の最小の形:LAN のパケットを暗号化して UDP で相手のルーターへ送る
usage: python3 minivpn.py 名前空間 自分のWAN側IP 相手のWAN側IP"""
import ctypes, fcntl, os, struct, sys, socket, select
from cryptography.hazmat.primitives.ciphers.aead import AESGCM
CLONE_NEWNET, TUNSETIFF, IFF_TUN, IFF_NO_PI = 0x40000000, 0x400454CA, 0x0001, 0x1000
ns, me, peer = sys.argv[1:4]
PORT = 39800
key = AESGCM(bytes.fromhex("00112233445566778899aabbccddeeff" * 2)) # 両側で同じ鍵(実験用の固定値)
libc = ctypes.CDLL(None, use_errno=True)
with open(f"/var/run/netns/{ns}") as f: # ルーターの名前空間に入る
libc.setns(f.fileno(), CLONE_NEWNET)
tun = os.open("/dev/net/tun", os.O_RDWR)
fcntl.ioctl(tun, TUNSETIFF, struct.pack("16sH", b"vpn0", IFF_TUN | IFF_NO_PI))
udp = socket.socket(socket.AF_INET, socket.SOCK_DGRAM)
udp.bind((me, PORT))
while True:
r, _, _ = select.select([tun, udp], [], [])
if tun in r: # LAN → 暗号化して WAN へ
pkt = os.read(tun, 65535)
nonce = os.urandom(12)
udp.sendto(nonce + key.encrypt(nonce, pkt, None), (peer, PORT))
if udp in r: # WAN → 復号して LAN へ
data, _ = udp.recvfrom(65535)
os.write(tun, key.decrypt(data[:12], data[12:], None))
ip -n s398-ra tuntap add dev vpn0 mode tun # ルーター B も同じ形(10.255.0.2)
ip -n s398-ra addr add 10.255.0.1/30 dev vpn0; ip -n s398-ra link set vpn0 up
ip -n s398-ra route add 192.168.20.0/24 via 10.255.0.2 dev vpn0 # LAN B あてはトンネルへ
python3 minivpn.py s398-ra 198.51.100.2 203.0.113.2 &
$ traceroute -n -N 1 192.168.20.11
traceroute to 192.168.20.11 (192.168.20.11), 30 hops max, 60 byte packets
1 192.168.10.1 0.044 ms 0.005 ms 0.003 ms
2 10.255.0.2 5.725 ms 0.638 ms 0.255 ms
3 192.168.20.11 0.279 ms 0.272 ms 0.245 ms
VPN を通ると、WAN 役のルーター(198.51.100.1)が経路から消え、ルーター A の次がルーター B(トンネルの向こう側 10.255.0.2)になりました。 中の通信から見ると、WAN 全体が1本の線のように見えます。同じ ping を、WAN 役のルーターと LAN B の PC で同時に見ました。
[WAN 役のルーターで見たもの]
IP 198.51.100.2.39800 > 203.0.113.2.39800: UDP, length 112
IP 203.0.113.2.39800 > 198.51.100.2.39800: UDP, length 112
[LAN B の PC で見たもの]
IP 192.168.10.11 > 192.168.20.11: ICMP echo request, id 3172, seq 1, length 64
IP 192.168.20.11 > 192.168.10.11: ICMP echo reply, id 3172, seq 1, length 64
- WAN の上を流れたのは、ルーター A と B の WAN 側の IP どうしの UDP だけでした。中身(112バイト)は、元のパケット84バイトに、暗号化に使う番号12バイトと改ざん検知の16バイトを足した大きさです。
tcpdump -Xで中身を表示しても、意味のある文字は出ませんでした。 - LAN B の PC には、送信元が 192.168.10.11(LAN A の PC)のまま届きました。拠点の間を NAT なしで、プライベート IP のまま通せています。
広域イーサネットに近い形:2つの拠点を1つの LAN にする
広域イーサネットは第2層でつなぐので、離れた拠点を同じ LAN(同じサブネット)として使えます。Linux の VXLAN(第3層の網の上に第2層の LAN を作る技術。RFC 7348 で UDP 4789番)で、ルーター A のスイッチとルーター B に新しく作ったスイッチをつなぎ、拠点 B に 192.168.10.21 の PC(LAN A と同じサブネット)を置きました。WAN の区間には往復 20ms の遅延を足しています。
ip -n s398-ra link add vx0 type vxlan id 398 local 198.51.100.2 remote 203.0.113.2 dstport 4789
ip -n s398-ra link set vx0 master br0; ip -n s398-ra link set vx0 up # ルーター B も同じ形
$ traceroute -n -N 1 192.168.10.21
traceroute to 192.168.10.21 (192.168.10.21), 30 hops max, 60 byte packets
1 192.168.10.21 23.487 ms 20.667 ms 20.578 ms
[WAN 役のルーターで見たもの]
IP 198.51.100.2.59294 > 203.0.113.2.4789: VXLAN, flags [I] (0x08), vni 398
ARP, Request who-has 192.168.10.21 tell 192.168.10.11, length 28
IP 203.0.113.2.59294 > 198.51.100.2.4789: VXLAN, flags [I] (0x08), vni 398
ARP, Reply 192.168.10.21 is-at c6:d3:d9:76:4a:f2, length 28
WAN を越えているのに、traceroute は1行(同じ LAN の扱い)で、往復は約20ms でした。 全員あての ARP(IP アドレスから MAC アドレスを調べる問い合わせ)も、WAN を越えて拠点 B に届いています。ルーター B のスイッチは、LAN A の PC の MAC アドレスを「WAN の向こう(vx0)」として覚えました。
$ bridge fdb show br br1 # ルーター B のスイッチ(permanent の行は省略)
c6:d3:d9:76:4a:f2 dev pb2 master br1
a2:bd:36:d0:42:97 dev vx0 master br1
a2:bd:36:d0:42:97 dev vx0 dst 198.51.100.2 self
| 確かめたこと | インターネット VPN(自作) | 広域イーサネットに近い形(VXLAN) |
|---|---|---|
| つなぐ層 | 第3層(IP) | 第2層(イーサネット) |
| 拠点のサブネット | 別々(192.168.10.0 と 192.168.20.0) | 同じ(192.168.10.0) |
| traceroute の行数 | 3(ルーター A・B・相手) | 1(相手だけ) |
| WAN の上での中身 | 暗号化されて読めない | ARP や IP がそのまま見える |
この実験の VXLAN には暗号化がありません。広域イーサネットや IP-VPN は、通信事業者の閉じた網で利用者ごとに通信を分けることで守られ、インターネット VPN は暗号化で守られます。この違いが、上の比較表の「品質と費用の傾向」の差につながっています。
WANの遅延をtracerouteで見る(往復0・20・100msの実測)
この節では、WAN の区間に遅延を足したとき、LAN の中と WAN を越える通信でかかる時間がどう変わるかを、実測の数値で確かめられます。
WAN 役のルーターとルーター B の間に、片道ごとに決めた時間だけパケットを止めて渡す中継を入れ、往復 0・20・100ms の遅延を足しました。中継の作り方は、関連記事「レイテンシとは|意味・目安・測り方を遅延0〜300msの実測で解説」と同じ方法です。各宛先に ping を5回送った平均です。
| 宛先 | WAN 0ms | WAN 20ms | WAN 100ms |
|---|---|---|---|
| PC-A2(同じ LAN) | 0.058ms | 0.056ms | 0.055ms |
| ルーター A(LAN 側) | 0.062ms | 0.046ms | 0.046ms |
| WAN 役のルーター | 0.071ms | 0.060ms | 0.051ms |
| ルーター B(WAN の向こう) | 0.534ms | 20.547ms | 100.606ms |
| PC-B1(VPN の向こう) | 0.952ms | 22.517ms | 101.230ms |
$ traceroute -n -N 1 192.168.20.11 # WAN の往復遅延 100ms
traceroute to 192.168.20.11 (192.168.20.11), 30 hops max, 60 byte packets
1 192.168.10.1 0.034 ms 0.005 ms 0.003 ms
2 10.255.0.2 101.137 ms 101.140 ms 101.058 ms
3 192.168.20.11 101.211 ms 103.620 ms 101.305 ms
- WAN の遅延は、LAN の中の通信には影響しませんでした。 同じ LAN の PC への往復は、どの条件でも 0.06ms 前後です。
- traceroute では、WAN の区間を越えた行から時間が跳ね上がります。 上の例では、1行目(自分のルーター)が 0.03ms、2行目から 101ms でした。遅い原因が家の中か WAN の先かは、どの行で増えるかで見分けられます。
- 実際の WAN の遅延は、距離でほぼ決まります。光ファイバーの中の光は1ミリ秒に約204km 進むので(Bozkurt ほかの論文)、1,000km 離れると往復だけで約9.8ms かかります。
WANの速度の考え方(帯域と遅延とウィンドウ)
この節では、契約の帯域(Mbps)が同じでも、WAN の遅延が大きいと1本の通信が遅くなる理由を、実測と計算で確かめられます。
WAN の速さは「帯域(1秒に流せる量)」と「遅延(1往復の時間)」の両方で決まります。 TCP は、相手から「受け取った」という返事(確認応答)を待たずに送れる量(ウィンドウ)に上限があり、1往復ごとにその量しか送れません。そのため、1本の TCP の速さの上限は、おおよそ「ウィンドウ ÷ 往復時間」になります。
PC-A1 が、WAN の向こうから 4MB を受け取る時間を測りました。受け取る側の窓口(受信バッファ)を OS の自動調整に任せた場合と、64KiB に絞った場合を、それぞれ3回測った中央値です。
"""サーバーから 4MB を受け取る時間を測る。usage: python3 tput.py 送る側のIP [受信バッファのバイト数]"""
import socket, sys, time
host = sys.argv[1]; rcvbuf = int(sys.argv[2]) if len(sys.argv) > 2 else 0
s = socket.socket()
if rcvbuf:
s.setsockopt(socket.SOL_SOCKET, socket.SO_RCVBUF, rcvbuf) # 一度に受け取れる量を絞る
t0 = time.monotonic(); s.connect((host, 39801)); got = 0
while (b := s.recv(65536)):
got += len(b)
dt = time.monotonic() - t0
print(f"{host:15} buf={rcvbuf or 'auto':>6} {got/1e6:.1f}MB {dt:6.2f}s {got*8/dt/1e6:7.1f}Mbps")
| 受け取り方 | WAN 0ms | WAN 20ms | WAN 100ms |
|---|---|---|---|
| 自動調整(NAT 越し) | 109.5Mbps | 64.5Mbps | 28.7Mbps |
| 64KiB に絞る(NAT 越し) | 99.4Mbps | 28.6Mbps | 5.9Mbps |
| 自動調整(VPN 越し) | 36.8Mbps | 41.4Mbps | 24.2Mbps |
| 64KiB に絞る(VPN 越し) | 46.8Mbps | 28.1Mbps | 5.9Mbps |
同じ LAN の PC からは、同じ 4MB を約6,100〜11,400Mbps で受け取れました(仮想の線なので実機の LAN より速い値です)。
- 64KiB に絞ると、遅延が 20ms で 28.6Mbps、100ms で 5.9Mbps まで下がりました。 遅延が5倍になると、速さはほぼ5分の1です。中継の速さ(0ms で約100Mbps)には余裕があるので、遅延だけで速さが決まっています。
- VPN 越しは、遅延0でも 40Mbps 前後でした。 Python で1つずつ暗号化している自作の VPN の処理が、上限になっています。実際の WAN でも、VPN 装置やルーターの処理能力が速さの上限になることがあります。
- 自動調整でも、遅延が大きいほど遅くなりました。4MB は小さく、TCP が送る量を少しずつ増やしている間に終わるためです。
測った値からウィンドウの大きさを逆算し、64KiB のウィンドウで出せる上限と、1Gbps を出すのに要るウィンドウを計算しました。
"""1本の TCP の速さの上限 ≒ ウィンドウ ÷ 往復時間(RTT)"""
import socket
s = socket.socket(); s.setsockopt(socket.SOL_SOCKET, socket.SO_RCVBUF, 65536)
print("SO_RCVBUF に 65536 を指定 → 実際の値", s.getsockopt(socket.SOL_SOCKET, socket.SO_RCVBUF))
for rtt_ms, mbps in [(20.5, 28.6), (100.6, 5.9)]: # 実測の RTT と速さ
print(f"RTT {rtt_ms:>5}ms で {mbps:>4}Mbps → 使えたウィンドウ {mbps*1e6/8*rtt_ms/1000/1024:.0f}KiB")
print("--- 64KiB のウィンドウで出せる上限 / 1Gbps を出すのに要るウィンドウ")
for rtt_ms in [1, 10, 20, 50, 100, 200]:
print(f"RTT {rtt_ms:>3}ms: 上限 {65536*8/(rtt_ms/1000)/1e6:7.1f}Mbps / 1Gbps には {1e9/8*rtt_ms/1000/1e6:5.2f}MB")
SO_RCVBUF に 65536 を指定 → 実際の値 131072
RTT 20.5ms で 28.6Mbps → 使えたウィンドウ 72KiB
RTT 100.6ms で 5.9Mbps → 使えたウィンドウ 72KiB
--- 64KiB のウィンドウで出せる上限 / 1Gbps を出すのに要るウィンドウ
RTT 1ms: 上限 524.3Mbps / 1Gbps には 0.12MB
RTT 10ms: 上限 52.4Mbps / 1Gbps には 1.25MB
RTT 20ms: 上限 26.2Mbps / 1Gbps には 2.50MB
RTT 50ms: 上限 10.5Mbps / 1Gbps には 6.25MB
RTT 100ms: 上限 5.2Mbps / 1Gbps には 12.50MB
RTT 200ms: 上限 2.6Mbps / 1Gbps には 25.00MB
- 遅延 20ms と 100ms のどちらでも、使えたウィンドウは同じ 72KiB でした。速さの差は、遅延の差だけで説明できます。
- Linux の man ページ(socket(7))のとおり、
SO_RCVBUFに指定した値は、管理用の分を含めて2倍で確保されます(131072)。 - 1Gbps の回線を1本の TCP で使い切るには、往復 100ms なら 12.5MB を返事なしで送れる必要があります。 RFC 7323 は、TCP のヘッダーのウィンドウの欄が16ビットで最大64KiB しか表せず、帯域×遅延がそれを超える経路ではウィンドウが速さを抑えるため、Window Scale という拡張で大きなウィンドウを使えるようにした、と説明しています。この Linux では
net.ipv4.tcp_window_scaling = 1、受信バッファの上限はnet.ipv4.tcp_rmemの最大 33554432 バイトでした。
WAN高速化(WAN最適化)の考え方
この節では、遠い拠点との通信を速くする「WAN 高速化」がどんな仕組みで速くするのかが分かります。
WAN 高速化(WAN 最適化)は、WAN に流す量を減らすか、遅延の影響を小さくすることで、拠点間の通信を速くする技術です。 HPE の解説は、WAN 最適化を WAN の性能とデータ転送を高める一連の技術とし、次の方法を挙げています。
- 1重複排除(同じデータを送り直さない)送ったことのある断片は、目印(指紋)だけを送り、相手側で元に戻す
- 2圧縮(送る量を小さくする)LZ(Lempel-Ziv)などの方式でデータを小さくして送る
- 3TCP の高速化(遅延の影響を減らす)ウィンドウの拡大や選択的な確認応答で、遠い相手との応答時間を縮める
- 4回線の品質を補う誤り訂正などで、インターネットや無線の損失・揺らぎの影響を減らす
圧縮と重複排除が、どれだけ送る量を減らせるかを Python で小さく再現しました。データは、拠点間でよく送られる形を想定して作った 10万行の CSV と、中身がばらばらなデータ(暗号化済み・圧縮済みのデータに近い)です。
"""WAN 高速化装置がする「圧縮」と「重複排除」を小さく再現する"""
import hashlib, os, random, zlib
random.seed(398)
rows = [f"{i},2026-10-23,店舗{random.randint(1,40):02d},商品{random.randint(1,500):04d},{random.randint(1,9)}\n"
for i in range(100_000)]
csv = "".join(rows).encode()
rnd = os.urandom(len(csv)) # 中身がばらばらなデータ
for name, data in [("CSV", csv), ("ランダム", rnd)]:
z = zlib.compress(data, 6)
print(f"圧縮 {name:5}: {len(data):>9,} → {len(z):>9,} バイト({len(z)/len(data):.0%})")
def chunks(b, size=8192):
return [b[i:i+size] for i in range(0, len(b), size)]
seen = {hashlib.sha256(c).digest() for c in chunks(csv)} # 1回目に送ったときに両端で覚えた断片
i = csv.index(b"\n50000,") + 1 # 2回目は5万行目の数量だけ変わった
end = csv.index(b"\n", i)
csv2 = csv[:end-1] + b"0" + csv[end:]
c2 = chunks(csv2)
new = [c for c in c2 if hashlib.sha256(c).digest() not in seen]
print(f"重複排除: 2回目 {len(c2)}断片のうち、送り直したのは {len(new)}断片"
f"({sum(map(len,new)):,} / {len(csv2):,} バイト)")
圧縮 CSV : 3,888,890 → 704,708 バイト(18%)
圧縮 ランダム : 3,888,890 → 3,890,086 バイト(100%)
重複排除: 2回目 475断片のうち、送り直したのは 1断片(8,192 / 3,888,890 バイト)
- くり返しの多い CSV は 18% に縮み、ばらばらなデータはまったく縮みませんでした。 VPN で暗号化したあとのデータは、ばらばらなデータと同じく縮みません。そのため、圧縮は暗号化の前(VPN の内側)で行う必要があります。
- 1行だけ変わったファイルを送り直すとき、重複排除では 475断片のうち1断片(約8KB)だけを送れば済みました。
- 契約の帯域を増やしても、1本の通信の速さは遅延で頭打ちになります(前の節)。帯域を増やす前に、遅延・往復の回数・送る量のどれが効いているかを切り分けると、手の打ち方が決まります。往復の回数を減らす方法は、関連記事「レイテンシとは|意味・目安・測り方を遅延0〜300msの実測で解説」で扱っています。
WANがつながらない・WANランプが点かないときの直し方
この節では、家のルーターの WAN 側がつながらないときに、どこから確かめればよいかが分かります。
- 1WAN(INTERNET)ポートのケーブルを差し直すONU とルーターの WAN ポートの両端。LAN ポートに差していないかも見る
- 2ONU・モデムを先に、ルーターを後に再起動する両方の電源を切り、ONU だけ入れて待ってから、ルーターを入れる
- 3ルーターの管理画面で WAN 側の IP を見る空なら接続設定(PPPoE の ID・パスワードなど)か回線を確かめる
- 4PC から traceroute(tracert)を送る1行目のルーターで止まれば WAN 側、1行目も出なければ家の中を疑う
バッファローのサポートは、INTERNET ポート(青色の差込口)のケーブルを抜き差しして確かめ、それでもつながらなければ、モデム(ONU・ホームゲートウェイなど)とルーターの電源を切り、モデムだけを入れて5分待ち、ルーターを入れて3分待ってから確かめる手順を案内しています。
| 症状 | 考えられる原因 | 直し方 |
|---|---|---|
| WAN ランプが点かない | ケーブルが WAN ポートに差さっていない・断線 | WAN(INTERNET)ポートに差し直す。ケーブルを替える |
| WAN ランプは点くがネットにつながらない | プロバイダの接続設定が無い・違う | 管理画面で接続方式と ID・パスワードを確かめる |
| WAN 側の IP が 192.168.x.x・100.64.x.x | 上にもう1つルーター(ホームゲートウェイ・CGN)がある | 外から接続を受けたいときは、その構成を確かめる |
| 家の中の機器どうしは通じるが外に出られない | WAN 側の障害、または ONU とポートの差し間違い | traceroute の1行目より先が出るかで切り分ける |
| 支店から本社だけ遅い | WAN の遅延・VPN 装置の処理能力 | traceroute でどの行から遅くなるか見る |
支店から本社に届かない(!N・* * *) |
拠点間の経路が無い・VPN が切れている | ルーターの経路表と VPN の状態を確かめる |
Linux での経路表や接続の状態の見方は、関連記事「デフォルトゲートウェイとは|調べ方・設定・決め方をLinuxで実演」で扱っています。
よくある質問
Q. WANとは簡単に言うと何ですか? A. 離れた場所にある LAN どうしをつなぐ、広い範囲のネットワークです。家では、ルーターの WAN ポートから先の、ONU・光回線・プロバイダの側が WAN 側です。
Q. WANの読み方は? A. 「ワン」と読みます。Wide Area Network の頭文字で、日本語では広域ネットワークと呼びます。LAN は「ラン」と読みます。
Q. LANとWANの違いは何ですか? A. LAN は家や建物の中の、自分で配線して管理するネットワーク、WAN は建物や地域をまたぎ、通信事業者の回線を使うネットワークです。実測では、同じ LAN の中の往復は 0.06ms 前後で、WAN を越えると距離の分の遅延が上乗せされました。
Q. WANとインターネットは同じですか? A. 同じではありません。広い意味ではインターネットも WAN の一種ですが、会社の WAN は拠点の間だけを結ぶ閉じたネットワークを指すことが多く、通信事業者の閉域網か、インターネットの上の VPN で作ります。
Q. WANとVPNの違いは? A. WAN は離れた拠点をつなぐネットワークそのもの、VPN はインターネットなどの共用の網の上に、暗号化や分離で専用の通り道を作る技術です。インターネット VPN や IP-VPN は、VPN の技術で WAN を作るサービスです。
Q. WANは安全ですか? A. 種類によって守り方が違います。閉域網(広域イーサネット・IP-VPN)は利用者ごとに通信を分け、インターネット VPN は暗号化で守ります。実験では、暗号化した VPN の中身は WAN の上で読めず、暗号化の無い VXLAN では ARP や IP がそのまま見えました。
Q. ルーターのWANポートとLANポートの違いは? A. WAN ポートは ONU やモデムにつなぐ口、LAN ポートは家の中の PC やハブをつなぐ口です。WAN ポートに「INTERNET」と書かれた機種もあり、バッファローの Wi-Fi ルーターでは青色の差込口です。
Q. WAN側IPアドレスとは何ですか? A. ルーターの外側(WAN ポート側)に付く IP アドレスで、プロバイダから割り当てられます。家の中の機器がインターネットに出るとき、送信元はこのアドレスに書き換わります(NAT)。
Q. WAN側のIPアドレスが192.168や100.64で始まるのはなぜですか? A. ルーターの外にもう1段ルーターや NAT がある状態です。100.64.0.0/10 は、RFC 6598 で通信事業者の NAT(CGN)用と決められた範囲です。
Q. WANの種類にはどんなものがありますか? A. 会社の拠点間では、専用線・広域イーサネット・IP-VPN・インターネット VPN が主な種類で、それらの回線を組み合わせて制御する SD-WAN もあります。違いは「WANの種類」の節の比較表にまとめています。
Q. 広域イーサネットとIP-VPNの違いは? A. 広域イーサネットは第2層(イーサネット)でつなぎ、IP 以外のプロトコルも運べます。IP-VPN は第3層(IP)でつなぎ、通信事業者の閉域 IP 網を共用します。この記事の実験では、第2層でつなぐと離れた拠点も同じサブネットで、traceroute が1行になりました。
Q. SD-WANとは何ですか? A. 複数の回線(インターネット・閉域網・LTE など)を、ソフトウェアで一元管理し、混雑や遅延に応じて通信ごとに経路を選ぶ仕組みです。クラウドへの通信をデータセンターを経由せずに直接送る使い方もあります。
Q. WANの速度はどう考えればよいですか? A. 帯域(Mbps)と遅延(往復の時間)の両方で決まります。1本の TCP の速さの上限はおおよそ「ウィンドウ ÷ 往復時間」で、実測では同じ 64KiB のウィンドウで、遅延 20ms は 28.6Mbps、100ms は 5.9Mbps でした。
Q. WAN高速化とは何ですか? A. 重複排除・圧縮・TCP の高速化などで、WAN に流す量や遅延の影響を減らし、拠点間の通信を速くする技術です。暗号化したあとのデータは圧縮で縮まないため、圧縮は暗号化の前に行います。
まとめ
- WAN(ワン)は、離れた場所の LAN どうしをつなぐ広い範囲のネットワーク。家ではルーターの WAN ポートから先が WAN 側。
- LAN は建物の中・プライベート IP・自分で管理、WAN は建物をまたぎ・通信事業者の回線を使う。会社の WAN はインターネットとは別の、拠点だけを結ぶ閉じたネットワークを指すことが多い。
- ルーターの WAN 側にはプロバイダからの IP が付き、LAN の機器は NAT でその IP に書き換えて外に出る。WAN 側が 192.168.x.x や 100.64.x.x なら、外にもう1段 NAT がある。
- 会社の WAN は、専用線・広域イーサネット・IP-VPN・インターネット VPN の4種類と、それらを束ねる SD-WAN。
- 実験では、LAN の中は traceroute 1行、WAN 越しは3行。プライベート IP のままでは WAN を越えられず、VPN でつなぐと拠点の LAN どうしが直接見えた。
- WAN の遅延は LAN の中には影響せず、WAN を越えた行から時間が跳ねる。同じウィンドウでも、遅延 20ms で 28.6Mbps、100ms で 5.9Mbps だった。
次に読むとよい記事です。自分の WAN 側の IP を外から確かめる方法は関連記事「グローバルIPの確認方法|コマンド・プライベートIPとの違いとNATを実演」で、LAN の中の機器のつなぎ方は関連記事「ハブとは|スイッチ・ルーターとの違いと仕組みを実例で解説」で扱っています。
参考・出典
確認日はいずれも 2026年10月23日です。
- NTT東日本「【基礎偏】LANとWANの違いを3つの視点で解説!代表的な3つの構成とサービスも紹介」:https://business.ntt-east.co.jp/column/service/omakase_it_monitoring/wan.html
- AWS「LAN と WAN にはどのような違いがありますか?」:https://aws.amazon.com/jp/compare/the-difference-between-lan-and-wan/
- @IT「自社にあったWANサービス、選定のポイントとは?:ネットワーク設計の定石(中編)」:https://atmarkit.itmedia.co.jp/ait/articles/0405/14/news075.html
- トレンドマイクロ「SD-WANとは」:https://www.trendmicro.com/ja_jp/what-is/what-is-zero-trust/sd-wan.html
- HPE「What is WAN optimization?」:https://www.hpe.com/br/en/what-is/wan-optimization.html
- バッファロー「インターネットに接続させる方法(簡易版)」:https://www.buffalo.jp/support/faq/detail/124141902.html
- バッファロー「ポート開放を行いサーバー公開をする際に、LAN側からINTERNET(WAN)側に割り当てられたIPアドレスを指定すると、ルーターの設定画面が表示されます」:https://www.buffalo.jp/support/faq/detail/12061.html
- RFC 1918「Address Allocation for Private Internets」:https://www.rfc-editor.org/rfc/rfc1918.html
- RFC 6598「IANA-Reserved IPv4 Prefix for Shared Address Space」:https://www.rfc-editor.org/rfc/rfc6598.html
- RFC 7323「TCP Extensions for High Performance」:https://www.rfc-editor.org/rfc/rfc7323.html
- RFC 7348「Virtual eXtensible Local Area Network (VXLAN)」:https://www.rfc-editor.org/rfc/rfc7348.html
- man7.org「socket(7)」:https://man7.org/linux/man-pages/man7/socket.7.html
- Microsoft Learn「tracert」:https://learn.microsoft.com/ja-jp/windows-server/administration/windows-commands/tracert
- Bozkurt ほか「Dissecting Latency in the Internet's Fiber Infrastructure」(arXiv:1811.10737):https://arxiv.org/abs/1811.10737
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(記載例)出典:株式会社RJC「WANとは|LANとの違い・種類・WANポートを図と実例で解説」
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ほかにも、チケットレストラン、書籍読み放題、2年ごとの慰労報奨(休暇 or 金一封)、11期連続の黒字決算。