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インセプションデッキの作り方|10の質問とシステム開発の記入例
インセプションデッキは、プロジェクトを始める前に「10の質問」にチームと関係者で答え、スライド10枚ほどにまとめたものです。 目的は、原典の言葉で「alignment and expectation setting」、つまり全員の向きをそろえ、期待をすり合わせることです。
| No. | 質問(『アジャイルサムライ』日本語版の節名) | 原文 | 答えること |
|---|---|---|---|
| 1 | 我われはなぜここにいるのか? | Why Are We Here? | プロジェクトをやる理由。いちばん大事な1つ |
| 2 | エレベーターピッチを作る | Create an Elevator Pitch | 誰の、何のための、どんなものか(30秒で) |
| 3 | パッケージデザインを作る | Design a Product Box | 利用者から見た「買う理由」3つとキャッチコピー |
| 4 | やらないことリストを作る | Create a NOT List | やる・やらない・あとで決める |
| 5 | 「ご近所さん」を探せ | Meet Your Neighbors | チームの外で関わる人・部署 |
| 6 | 解決案を描く | Show the Solution | 技術の構成と、リスクがある箇所 |
| 7 | 夜も眠れなくなるような問題は何だろう? | Ask What Keeps Us Up at Night | 心配なリスク |
| 8 | 期間を見極める | Size It Up | 3か月か、6か月か、9か月か(確約ではない) |
| 9 | 何を諦めるのかをはっきりさせる | Be Clear on What's Going to Give | 時間・予算・品質・スコープのどれを譲るか |
| 10 | 何がどれだけ必要なのか | Show What It's Going to Take | 人数・役割・期間・費用 |
確認環境:10の質問の名前は、オーム社の書籍ページの目次(第4章・第5章の節名)と、Jonathan Rasmusson のブログ記事「The Agile Inception Deck」の原文で確かめました。スライドの文言は、日本語版の公式サポートリポジトリ(GitHub の agile-samurai-ja/support)にあるテンプレート(日本語版 0.4、2012-04-02)から文字を取り出して確かめています。Markdown のテンプレートを調べるスクリプトは Python 3.11.15(Linux)で動かし、Mermaid の図は Mermaid 12.1.0(@mermaid-js/mermaid-cli 12.0.0)で描画できることを確かめました(確認日 2026年10月13日)。
本記事の内容は、ご自由にお使いください。
ご利用の際は、出典として本ページへのリンクを記載いただけますようお願いします。
(記載例)出典:株式会社RJC「インセプションデッキの作り方|10の質問とシステム開発の記入例」
インセプションデッキとは
インセプションデッキは、Jonathan Rasmusson が書籍『The Agile Samurai』(日本語版『アジャイルサムライ――達人開発者への道』、オーム社、2011年)で紹介した、プロジェクトの方向づけの道具です。 著者のブログでは、アジャイルの手法の多くが「プロジェクトの憲章づくり(project chartering)」について触れていない、という問題意識から書かれています。
- 何をするか:10の質問に、チームと関係者が一緒に答えます。答えをスライド1枚ずつにまとめます。
- 何が得られるか:「なぜやるのか」「何をやらないのか」「何を譲るのか」が、コードを書く前に合意されます。
- どのくらい使えるか:ブログでは、作るのに「数日から1〜2週間」かかり、「3〜6か月分の計画」に使えるとしています。
- 作ったあと:テンプレートの最後のスライドには、見えるところに貼り、状況が変わったら更新する("Put it somewhere visible for all too see. And update it when things change.")と書かれています。
flowchart LR
subgraph W["前半:なぜ・なに(第4章 全体像を捉える)"]
q1["1 我われはなぜここにいるのか"] --> q2["2 エレベーターピッチ"] --> q3["3 パッケージデザイン"] --> q4["4 やらないことリスト"] --> q5["5 ご近所さんを探せ"]
end
subgraph H["後半:どうやって(第5章 具現化させる)"]
q6["6 解決案を描く"] --> q7["7 夜も眠れなくなる問題"] --> q8["8 期間を見極める"] --> q9["9 何を諦めるのか"] --> q10["10 何がどれだけ必要か"]
end
q5 --> q6
書籍では、前半の5つが第4章「全体像を捉える」、後半の5つが第5章「具現化させる」にまとめられています。 前半で「なぜ・なに」をそろえ、後半で「どうやって・いくらで」を見積もる流れです。
プロジェクト憲章・キックオフとの違い
| 資料 | 主な目的 | 主な読み手 | 形 |
|---|---|---|---|
| インセプションデッキ | チームと関係者の認識をそろえる | チーム・スポンサー | 質問への答え。スライド10枚ほど |
| プロジェクト憲章 | プロジェクトを正式に認め、責任者と権限を決める | 経営層・スポンサー | 文書。承認の欄がある |
| キックオフの資料 | 開始を全員に伝え、進め方をそろえる | 関係者全員 | 説明用のスライド |
インセプションデッキの答えは、憲章やキックオフの資料の材料になります。プロジェクト憲章は関連記事「プロジェクト憲章の書き方|テンプレート全文とシステム開発の記入例」で、キックオフの資料は「キックオフミーティングのアジェンダテンプレートと資料の目次例・進め方」で扱っています。
記入例の前提:社内の勤怠管理システムの刷新
この記事では、次のプロジェクトを例に10枚を書きます。人数や期間は説明のための仮の値です。
- 社員 約300名の会社。今は勤怠のパッケージ製品と Excel を組み合わせて使っている
- パッケージの保守が切れるため、社内向けの Web アプリに作り替える
- 打刻(ICカード・Web)、休暇・残業の申請と承認、給与計算システムへの連携を対象にする
- スポンサーは人事部長。開発はチーム5名
1. 我われはなぜここにいるのか
目的:プロジェクトをやる理由を書き出し、いちばん大事な1つを選びます。 ブログでは「なぜ作るのかを知らなければ、よいプロダクトは作れない」と説明しています。開発の途中で判断に迷ったとき、この1つに立ち返ります。
書き方:テンプレートの説明は「会社がこのプロジェクトにお金を使いたい理由を全部書き出し、いちばん大事なものを1つ選んで目立たせる」です。日本語版のスライドには「大事な理由その1〜3」と「このプロジェクトの根幹に関わる理由を1つ、ここに書く」の欄があります。
記入例
| 欄 | 記入 |
|---|---|
| 根幹に関わる理由(1つ) | 月末の勤怠締めを、人事部の手作業なしで終わらせる |
| 大事な理由その1 | 36協定の上限に近い社員を、月の途中で把握する |
| 大事な理由その2 | 保守が切れる現行パッケージから移る |
| 大事な理由その3 | スマートフォンから打刻・申請できるようにする |
書くときのコツ:理由は「〜を作る」ではなく「〜できるようにする」と、結果で書きます。手段(Web アプリにする)が理由に入ると、別の手段を比べられなくなります。
2. エレベーターピッチ
目的:プロダクトを「誰の・何のための・ほかと何が違うか」で、30秒ほどで言える形にします。 ブログでは「何のプロダクトか、誰のためか、なぜ特別か」を伝えるものとしています。著者はコメント欄で、この型は Geoffrey Moore の『Crossing the Chasm(キャズム)』から来たと書いています。
日本語版テンプレートの型(原文のまま)
[潜在的なニーズを満たしたり、潜在的な課題を解決したり] したい
[対象顧客] 向けの、
[プロダクト名] というプロダクトは、
[プロダクトのカテゴリー] です。
これは [重要な利点、対価に見合う説得力のある理由] ができ、
[代替手段の最右翼] とは違って、
[差別化の決定的な特徴] が備わっている。
記入例
月末の締めと残業時間の確認に手間をかけたくない
人事部と管理職 向けの、
「勤怠ナビ」というプロダクトは、
社内向けの勤怠管理Webアプリ です。
これは 打刻から承認、給与計算への連携までを1か所で終えること ができ、
現行のパッケージとExcelの組み合わせ とは違って、
残業の上限に近づいた社員を月の途中で知らせる機能 が備わっている。
書くときのコツ:「代替手段の最右翼」には、利用者が今使っているもの(今のやり方)を書きます。社内システムでは、競合の製品より「今の手作業」が最大の代わりになることが多いです。
3. パッケージデザイン
目的:プロダクトが店の棚に並んでいたら、箱に何が書かれているかを考えます。 テンプレートの説明は「チームに、利用者の目でプロジェクトを見てもらうこと」です。ブログでは「人がこれを買う理由のトップ3は何か」「精神を表すスローガンを1つ挙げるなら何か」と問いかけています。
書き方:日本語版のスライドの欄は「(プロダクトの名前)」「(素敵な写真)」「(最高のキャッチコピー)」「(ユーザーへのアピールその1〜3)」です。
記入例
| 欄 | 記入 |
|---|---|
| プロダクトの名前 | 勤怠ナビ |
| 素敵な写真 | 定時に帰る人事部の担当者 |
| 最高のキャッチコピー | 締め日に、残業しない。 |
| アピールその1 | スマホから打刻・申請できる |
| アピールその2 | 上限に近い人が一覧で分かる |
| アピールその3 | 給与計算にそのまま渡せる |
書くときのコツ:アピールは機能名ではなく、利用者の得になることで書きます。「CSV出力機能」より「給与計算にそのまま渡せる」のほうが、利用者の目線になります。
4. やらないことリスト
目的:やること・やらないことを先に決めて、範囲をはっきりさせます。 ブログでは「イエスと言うのは簡単だ。難しいのはノーと言うことだ」と書き、「やる」の列から、大まかなユーザーストーリーが出てくるとしています。
書き方:日本語版のスライドは「やる」「やらない」「あとで決める」の3つの欄です。テンプレートの説明には、プロジェクトを始める前に「あとで決める」をすべて「やる」か「やらない」に移す("move all the UNRESOLVED ones to either IN or OUT")と書かれています。
記入例
| やる | やらない | あとで決める |
|---|---|---|
| 打刻(ICカード・Web) | シフト作成 | 子会社への展開 |
| 休暇・残業の申請と承認 | 給与計算そのもの | 有休の計画付与 |
| 給与計算システムへの月次CSV | 経費精算 | |
| 残業の上限アラート | 英語の画面 |
書くときのコツ:「やらない」には、誰かが「やるだろう」と思っていそうなものを書きます。勤怠の例では「給与計算そのもの」がそれにあたります。勤怠のデータを持つと、給与計算もできそうに見えるからです。範囲の決め方は、関連記事「スコープ定義の書き方 スコープ記述書テンプレートと対象外の例」で扱っています。
5. 「ご近所さん」を探せ
目的:チームの外で、プロジェクトに関わる人を前もって洗い出します。 ブログでは「たいていのプロジェクトは、日々の担当者以外の人がいて初めて成功する」と説明しています。テンプレートの説明は「関わることになる人を全員挙げ、関係を作り始める」です。
書き方:日本語版のスライドは、中央に「コアチーム」を置き、周りに「(○○グループ)」「(他のチーム)」「(ほげほげ部門)」を並べる形です。スライドには「関係者全員を!」「…思っているよりもずっと大きい!」と書かれています。
記入例
| 関わる人・部署 | 関わる場面 | 早めに話すこと |
|---|---|---|
| コアチーム(開発4名+人事部の担当1名) | 毎日 | 進め方・レビューの曜日 |
| 情報システム部 | SSO・ネットワーク・サーバー | 社内ID基盤の連携の手順 |
| 給与計算システムの保守会社 | 月次CSVの取り込み | CSVの項目と文字コード |
| 社会保険労務士 | 勤怠のルールの確認 | 変形労働時間制の計算 |
| 打刻機のメーカー | 打刻データの連携 | 連携の仕様の入手 |
| 各部署の管理職 | 承認の操作 | 説明会の日程 |
関わる人の関心と影響の大きさを表で整理する方法は、関連記事「ステークホルダー管理表の書き方とテンプレート|関心度×影響度マトリクスの例」で扱っています。
6. 解決案を描く
目的:どう作るつもりかを図で示し、リスクがある箇所を見せます。 ブログでは「チームを選ぶときに、アーキテクチャも選んでいる」と書き、全員が納得していることを確かめる場としています。あわせて「答えを全部持っていないなら、ここで正直に言う機会でもある」としています。
書き方:テンプレートの説明は「使うつもりのツールやライブラリの前提を書く。アーキテクチャの中でリスクがある部分も目立たせる」です。日本語版のスライドには「採用する技術」の欄と、「←リスクがある箇所」「←今回は対象外」の印があります。
記入例
flowchart LR
subgraph S["技術的な解決策の概要"]
U["社員(PC・スマホのブラウザ)"] --> W["勤怠Webアプリ<br>(Java / Spring Boot)"]
C["ICカード打刻機"] -->|"打刻データ"| W
W --> DB[("勤怠DB<br>PostgreSQL")]
W -->|"月次CSV"| P["給与計算システム(既存)"]
W -->|"ログイン"| ID["社内ID基盤(SSO)"]
end
R1["リスクがある箇所:<br>打刻機の連携仕様"] -.-> C
O1["今回は対象外:<br>シフト作成"] -.-> W
- 採用する技術:Java 21、Spring Boot、PostgreSQL、社内ID基盤(SSO)
- リスクがある箇所:打刻機の連携仕様(まだ手元にない)
全体の構成図をもう一段詳しく描く方法は、関連記事「C4モデルの書き方|コンテキスト図・コンテナ図のMermaid例」で扱っています。
7. 夜も眠れなくなるような問題は何だろう?
目的:心配するに値するリスクを、始める前に話しておきます。 ブログでは「心配する価値のあるリスクを見つける」演習とし、チームでどうにかできるものと、できないものを分けることを勧めています。例として、専任のメンバーを確保することは「どうにかできるもので、戦う価値がある」と書いています。
書き方:日本語版のスライドの欄は「もし起きたらこわーいこと、その1〜3」です。
記入例
| こわいこと | チームで手を打てるか | 打つ手 |
|---|---|---|
| 打刻機の連携仕様が手に入らない | 一部できる | 最初の2週間でメーカーに問い合わせ、手に入らなければCSVの取り込みに切り替える |
| 人事部の担当者が兼務で、確認が遅れる | できる | スポンサーに頼み、週2回のレビューの時間を確保する |
| 月末の締めとリリースが重なる | できる | リリースを月の半ばに置く |
| 法改正で計算のルールが変わる | できない | 情報を追い、変わったら優先順位を見直す |
書くときのコツ:ここで挙がったものは、リスクの一覧にそのまま移せます。関連記事「リスク管理表のテンプレートと書き方 リスク一覧60例と評価基準」で扱っています。
8. 期間を見極める
目的:プロジェクトの大きさを、ざっくり示します。 ブログでは「正確な日数は最初には言えない。でも、3か月か、6か月か、9か月かは言える」「大事なのは精度ではない」と書いています。テンプレートの説明は「(1、3、6か月の)どれかの大きさを伝える。このスライドを作る前に、大まかなストーリーの一覧を作って見積もる」「確約ではない」です。日本語版のスライドにも「あくまで推測であって、確約するものではありません。」と書かれています。
書き方:日本語版のスライドは、リリースまでの矢印の上に「構築」「受入テスト」「トレーニング」を並べ、「〜3ヶ月」「1週間」のように長さを書く形です。
記入例(Mermaid のガントチャートで描いたもの)
gantt
title 勤怠管理システム刷新(推測であり確約ではない)
dateFormat YYYY-MM-DD
axisFormat %m/%d
tickInterval 2week
section 構築
打刻・申請・承認(イテレーション1〜6) :a1, 2027-01-04, 12w
給与計算連携・帳票(イテレーション7〜8) :a2, after a1, 4w
section 受け入れ
受入テスト(人事部・情報システム部) :a3, after a2, 2w
section 展開
説明会・トレーニング :a4, after a3, 1w
リリース :milestone, after a4, 0d
合計は 12+4+2+1=19週、およそ4か月半です。 2週間のイテレーション(決まった長さの開発の区切り)を8回と置いています。ストーリーの大きさの見積もり方は、関連記事「ストーリーポイントの見積もり方|基準表とプランニングポーカー手順」で扱っています。
9. 何を諦めるのかをはっきりさせる(トレードオフスライダー)
目的:うまくいかなくなったとき、何を譲るかを先に決めます。 ブログでは、時間・予算・スコープ・品質の4つを挙げ、「お金がすべてのプロジェクトもあれば、日付がすべてのプロジェクトもある」と書いています。アジャイルではふつうはスコープを調整するとしています。
トレードオフスライダーのルール(テンプレートの説明の原文から)
- 2つのスライダーを同じ位置に置かない("No two sliders can occupy the same level.")
- ほかに大事な要素は、下に書き足す("List other important project factors down below.")
日本語版のスライドの「典型的なフォース」は次の4つです。下の段には「上記以外で重要なこと」の例として「簡単に使える」「考えさせない!」「詳細な証跡(なんでもログを取る)」が並んでいます。
記入例
| フォース(日本語版の言葉) | MAX ← → MIN | 理由 |
|---|---|---|
| 期日を死守する(時間) | ●○○○ | 現行パッケージの保守が切れる日が決まっている |
| 高い品質、少ない欠陥(品質) | ○●○○ | 給与の計算に直結する |
| 予算内に収める(予算) | ○○●○ | 年度の予算はあるが、多少の追加は相談できる |
| 機能をぜんぶ揃える(スコープ) | ○○○● | 上限アラート以外の便利機能は後回しにできる |
| 上記以外:簡単に使える | ○●○○ | 説明会なしで管理職が承認できること |
左(MAX)にあるほど譲れないもの、右(MIN)にあるほど譲れるものです。 4つすべてを左に寄せると、譲るものが決まっていないのと同じです。スポンサーに「期日と品質のどちらかを選ぶとしたら」と聞くと、位置が決まりやすくなります。優先順位の考え方は、関連記事「QCDとは?優先順位の決め方とトレードオフの例・管理指標一覧」で扱っています。
10. 何がどれだけ必要なのか
目的:必要な人数・役割・期間・費用を示し、スポンサーがやる価値を判断できるようにします。 テンプレートの説明は、関係者がふつう知りたいのは「いくらかかるか」「いつ終わるか」の2つで、それに答えるスライドだとしています。あわせて「どんな人が、どんなスキルを持って必要か」を示し、特定の人が欠かせないなら名前を書くよう勧めています。
書き方:日本語版のスライドは「俺たちの“Aチーム”」(人数・役割・強みや期待すること)と、「初回のリリースに必要なもの」(例:「3名、3.5ヶ月、$250K」)の2枚です。
記入例
| 人数 | 役割 | 強みや期待すること |
|---|---|---|
| 1 | プロダクトオーナー(人事部) | 勤怠のルールに詳しい。週2回のレビューに出られる |
| 3 | 開発者 | Java、Spring Boot、テスト自動化 |
| 1 | テスト・業務分析 | 変形労働時間制の計算を読める |
| 0.5 | マネージャ | スポンサーへの報告、範囲の調整 |
初回のリリースに必要なもの:5.5名、4.5か月、費用は社内の単価で計算した金額
テンプレートの最後のスライドの説明には、デッキを作る中で聞いた「無茶な話」を持ち出し、スポンサーと率直に話す機会だと書かれています。「この人がいないと進まない」「この条件がそろわないと期日は守れない」は、ここで言います。工数の出し方は、関連記事「工数見積もりの方法|積み上げ・三点見積もりの計算例と精度を上げるコツ」で扱っています。
進め方:時間・参加者・順番
原典は「正しい人を部屋に集める」ことを求めていますが、時間割は決めていません。 以下は、ブログの「数日から1〜2週間」の範囲で組んだ例です。
| 回 | 扱う質問 | 時間の例 | 参加者の例 |
|---|---|---|---|
| 1日目 午前 | 1 なぜ・2 エレベーターピッチ・3 パッケージ | 3時間 | スポンサー、PO、チーム全員 |
| 1日目 午後 | 4 やらないこと・5 ご近所さん | 3時間 | PO、チーム全員、業務部門の代表 |
| 2〜3日目 | 6 解決案・7 眠れない問題 | 各2時間 | チーム全員(技術の担当が中心) |
| 4〜5日目 | ストーリーの一覧づくりと見積もり(8 の前提) | 必要なだけ | PO、チーム全員 |
| 最終日 | 8 期間・9 スライダー・10 必要なもの、全体の読み合わせ | 3時間 | スポンサー、PO、チーム全員 |
- スポンサーは、1・9・10 には必ずいてもらうほうが進めやすくなります。「なぜやるのか」と「何を譲るのか」は、お金を出す人が決めることだからです。テンプレートの1枚目にも、スポンサーの名前を大きく書く欄があります。
- 8(期間)の前に、大まかなストーリーの一覧を作ります。 テンプレートの説明がそう求めています。書き方は、関連記事「ユーザーストーリーの書き方と例30選|受け入れ基準Given-When-Then」で扱っています。
- 司会は、プロジェクトを動かす人が務めます。 著者はブログのコメント欄で「プロジェクトを動かしている人なら誰でも」と答えています。進行のしかたは、関連記事「会議ファシリテーションの進め方 アジェンダ設計とフレーズ集」で扱っています。
Markdown のテンプレート(コピーして使える形)
スライドの代わりに Markdown で書くと、リポジトリやWikiで差分を残せます。見出しは日本語版の節名に合わせています。
# インセプションデッキ:<プロジェクトの名前>
- スポンサー:<スポンサーの名前>
- 版:0.1(YYYY-MM-DD)
## 1. 我われはなぜここにいるのか
- **<このプロジェクトの根幹に関わる理由を1つ>**
- 大事な理由その1
- 大事な理由その2
## 2. エレベーターピッチ
- [潜在的なニーズを満たしたり、潜在的な課題を解決したり] したい
- [対象顧客] 向けの、
- [プロダクト名] というプロダクトは、
- [プロダクトのカテゴリー] です。
- これは [重要な利点、対価に見合う説得力のある理由] ができ、
- [代替手段の最右翼] とは違って、
- [差別化の決定的な特徴] が備わっている。
## 3. パッケージデザイン
- 名前:
- キャッチコピー:
- アピールその1:
- アピールその2:
- アピールその3:
## 4. やらないことリスト
| 区分 | 項目 |
|---|---|
| やる | |
| やらない | |
| あとで決める | |
## 5. ご近所さんを探せ
| 関わる人・部署 | 関わる場面 | 早めに話すこと |
|---|---|---|
| コアチーム | | |
## 6. 解決案を描く
- 採用する技術:<言語> / <ライブラリ> / <ツール>
- リスクがある箇所:
- 今回は対象外:
## 7. 夜も眠れなくなる問題
| こわいこと | チームで手を打てるか | 打つ手 |
|---|---|---|
| | | |
## 8. 期間を見極める
- およそ <N> か月(推測であり確約ではない)
## 9. 何を諦めるのか(トレードオフスライダー)
| フォース | 位置(1=最優先、4=いちばん譲れる) |
|---|---|
| 期日を死守する(時間) | 1 |
| 高い品質、少ない欠陥(品質) | 2 |
| 予算内に収める(予算) | 3 |
| 機能をぜんぶ揃える(スコープ) | 4 |
## 10. 何がどれだけ必要か
| 人数 | 役割 | 強みや期待すること |
|---|---|---|
| | | |
抜けを調べるスクリプト
テンプレートのルールのうち、機械で調べられる3つ(10の見出しがそろっているか、「あとで決める」が残っていないか、スライダーが同じ位置に重なっていないか)を調べる Python のスクリプトです。
import re, sys
text = open(sys.argv[1], encoding="utf-8").read()
errors = []
# 10の質問の見出しがそろっているか
heads = re.findall(r"^## (\d+)\. ", text, re.M)
if heads != [str(i) for i in range(1, 11)]:
errors.append(f"見出しが10個そろっていない: {heads}")
# やらないことリストに「あとで決める」が残っていないか
notlist = text.split("## 4.")[1].split("## 5.")[0]
pending = re.findall(r"^| あとで決める | (.+?) |", notlist, re.M)
if pending:
errors.append(f"「あとで決める」が残っている: {pending}")
# トレードオフスライダー:同じ位置に2つ置かない
slider = text.split("## 9.")[1].split("## 10.")[0]
levels = [int(n) for n in re.findall(r"| (\d) |$", slider, re.M)]
if len(levels) != len(set(levels)):
errors.append(f"スライダーの位置が重なっている: {levels}")
print("\n".join(errors) if errors else "OK")
勤怠管理システムの記入例(「あとで決める」に「子会社への展開」が1件残った版)で動かした結果です。
$ python3 check_deck.py deck.md
「あとで決める」が残っている: ['子会社への展開']
予算のスライダーを、時間と同じ「1」にした版では、次のように2件とも出ました。
$ python3 check_deck.py deck_ng.md
「あとで決める」が残っている: ['子会社への展開']
スライダーの位置が重なっている: [1, 2, 1, 4]
「子会社への展開」を「やらない(次の年度に検討)」に移すと、OK になりました。
よくある誤り
| 誤り | 起きること | 直し方 |
|---|---|---|
| 1 の理由に手段を書く(「Webアプリにする」) | ほかの手段と比べられない | 「〜できるようにする」と結果で書く |
| スライダーを全部 MAX にする | 遅れたときに譲るものがない | 同じ位置に2つ置かないルールを守る |
| 「あとで決める」を残して始める | 範囲の行き違いが後で出る | 始める前に「やる」か「やらない」に移す |
| 8 の期間を約束として扱う | 見積もりが外れたときに信頼を失う | 「推測であり確約ではない」と書き添える |
| 作ったあと見返さない | 状況とずれる | 見えるところに貼り、変わったら更新する |
よくある質問
Q. 10個すべてに答えないといけませんか。 A. 原典は10の質問をそろいで紹介しています。小さな改修では、1(なぜ)・4(やらないこと)・9(何を諦めるか)だけでも、範囲と優先順位の行き違いを減らせます。どれを省いたかは、デッキに書いておくと後で見返せます。
Q. ウォーターフォールの開発でも使えますか。 A. 使えます。10の質問の多くは開発手法に関係なく、要件定義の前に関係者の認識をそろえるのに役立ちます。開発手法の違いは、関連記事「ウォーターフォールとアジャイルの違い比較表|開発手法の選び方診断」で扱っています。
Q. いつ作り直しますか。 A. テンプレートの最後のスライドには「状況が変わったら更新する」と書かれています。スポンサーが変わったとき、範囲が大きく変わったとき、リリースの区切りのときが見直しの目安になります。
Q. MVP の範囲とはどう関係しますか。 A. 4 の「やる」と 10 の「初回のリリースに必要なもの」が、最初に届ける範囲の候補になります。MVP の考え方は、関連記事「MVPとは|PoC・プロトタイプとの違いと作り方」で扱っています。
まとめ
- インセプションデッキは 10の質問への答え。目的は「全員の向きをそろえ、期待をすり合わせること」
- 前半(なぜ・なに)は なぜ・エレベーターピッチ・パッケージ・やらないこと・ご近所さん、後半(どうやって)は 解決案・眠れない問題・期間・何を諦めるか・何が必要か
- やらないことリストは、始める前に「あとで決める」を残さない
- トレードオフスライダーは、2つを同じ位置に置かない
- 期間は 推測であって確約ではない。作ったら見えるところに貼り、変わったら更新する
参考・出典
確認日はいずれも 2026年10月13日です。
- Jonathan Rasmusson「The Agile Inception Deck」(The Agile Warrior):https://agilewarrior.wordpress.com/2010/11/06/the-agile-inception-deck/
- オーム社『アジャイルサムライ――達人開発者への道』書籍ページ(目次):https://www.ohmsha.co.jp/book/9784274068560/
- agile-samurai-ja/support(『アジャイルサムライ』日本語版サポート、インセプションデッキのテンプレート 日本語版 0.4):https://github.com/agile-samurai-ja/support
本記事の内容は、ご自由にお使いください。
ご利用の際は、出典として本ページへのリンクを記載いただけますようお願いします。
(記載例)出典:株式会社RJC「インセプションデッキの作り方|10の質問とシステム開発の記入例」
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